新書のすゝめ 〜 人間とは?

1. 人間の覚悟 . . . 2008 / 五木 寛之

人間の覚悟

戦後50年間、ひたすら元気に坂を登り続けたこの国は、その後に続いた「失われた20年」によって停滞しているかのように見えるが、それはちょうど、頂上までゆっくりと登り続けていたジェットコースターが、これから始まる急降下に向けて一瞬止まるのに似ていると表現するのは作家の五木氏。折しも2008年、リーマンショックによる100年に1度の経済恐慌が起こった直後に書かれたこの本は、資本主義という巨大な恐竜が断末魔の叫びを上げ、格差社会や年金崩壊などの災いが人々に襲いかかってくる近未来を予見する。「国を愛することと、国家を信用することは別である」と主張する著者が、現在のような混沌の時代における「諦める覚悟」の重要性を説く。しかしその「諦め」とは「投げ出す・ギブアップする」ことではなく、「明らかに究める」という意味。目の前に起こっている真実を真正面から受け止め、人間としての「覚悟」を決めた生き方について提言する。


2. 人間の基本 . . . 2012 / 曽野 綾子

人間の基本

幼稚園から大学まで聖心という育ちのためか、一般市民からは生粋のお嬢様と思われている作者だが、15歳の時に縁談が破談となったり、母娘ともに父から暴力を受け続けていたりと悲惨な青春時代を送っており、社会に出てからも60歳を過ぎた両親を熟年離婚させたりと、なかなかの苦労人である。本書は教育・常識・教養など、人間の「基本」となる部分をしっかりと確立もせずに、見た目やルール・そして金銭面の損得という「末端」ばかりを重視する今の風潮に流されずに「凛々しく」生きるためのアドバイスが詰まっている。例えば「貧乏」とは贅沢が出来ないことではなく、「今日の晩御飯を食べることが出来ないという状態」であると論じ、アフリカなどの僻地と比べると別世界であり、世界的に見ても恵まれた暮らしを送っている日本人の甘えを叱咤する。時に愚痴っぽい言い回しや、また上から目線も少し気になるが、人生の大先輩からの心優しいお説教と思いながら読んでみたい。


3. ナマケモノに意義がある . . . 2013 / 池田 清彦

ナマケモノに意義がある

2006年の著書「環境問題のウソ」(ちくまプリマー新書)で論議を呼んだ生物学者の池田清彦氏による「怠けのすすめ」。労働や格差・富や権力そして戦争など、地球上から決して無くなる事のない人類固有の問題を、生物学者の目線から考察する。人生が楽しいと思える究極の理由は「未来が分からないから」であり、「人は必ず死ぬから」であると論じ、自由に生きる事の大切さを謳(うた)う。自らを「日本で最も過激なリバタリアン(完全な自由主義者)」と称する筆者は、正しい生き方とは「人に迷惑を掛けないという条件で自由に生きること」と断言し、最後は「人生は計算通りに行かないからこそ面白い」と締めくくる。ちなみに表題の「ナマケモノ」に対する生物学的な分析に関しては全文の中でわずか2ページほどしか書かれておらす、本書は人間が幸せに生きるために「ナマケモノ」になる事を推奨した一冊である。


4. 人間、このタガの外れた生き物 . . . 2013 / 池田 清彦

人間、このタガが外れた動物

虫捕りが大好きという生物学者の池田センセイによる人間ウオッチ。600万年前の地球が、何かのはずみで他の生物とは異なった“人間”という「特殊な生き物」を創ってしまい、その特殊性こそが戦争や環境破壊などを引き起こす原因であり、人間という生き物がついに地球の脅威となってしまったと論ずる。ならば人間はどのように地球に適応して生きていくべきなのか...?人間がこれから地球で生きていくためには、他の生物を見習って地球のルールに従うべき、という教えが詰まった一冊で、筆者の学者としての見識やそのユーモアには感心させられる。


5. 無条件幸福論 . . . 2011 / 藤本 義一

無条件幸福論

大阪出身の直木賞作家で、おとなの深夜番組「11PM -イレブンピーエム」の司会者としても活躍、放送作家としては「東の井上ひさし ・ 西の藤本義一」と称された藤本氏(2012年没)による幸福論。肩書きや学歴・財産などは努力によって勝ち得た勲章ではあるが、それらは決して「幸福」に直結する要素ではあり得ない。むしろ幸福とは一人一人が自分自身で感じ取るもので、他人と比べる事に意味はなく、例えば時代や環境によって左右される事のない「達成感」や「充実感」のような、こころの奥から湧き上がる喜びが絶対的な「無条件幸福」とも呼ぶべきもので、これこそが人間を本質的に幸せにするものだと結論付ける。2011年に起こった東日本大震災とその後の政治不信による社会崩壊を肌身に感じた著者が、そんな時代に人々がどうすれば、何を考えれば幸福になれるのかを説いた幸福論。


6. 気にするな . . . 2010 / 弘兼 憲史 (ひろかね・けんし)

気にするな

松下電器(現・パナソニック)のサラリーマンから漫画家に転身し、『課長島耕作』などのヒット作で知られる漫画家の弘兼憲史による人生論。華やかに見える創作の世界とは裏腹に、1日13時間・週6日も漫画を書き続けて何十年という著者は、定年とか悠々自適という言葉とはほど遠い生活に明け暮れている。それでも明るく楽しく生きていられるのは、仕事や人間関係そして数々の不満や怒りを全て「人生の肥やし」と素直に受け入れて来れたから。人生の経験は鯨(クジラ)のようなもので、肉だけではなく骨や脂・皮やヒゲまで全てが利用されて捨てるところが無い。失敗も成功も、幸運も不運も、どんな経験も何かに使えると思えば常に前向きに生きられると論ずる著者の座右の銘は「人間は不平等」「どんな夢も努力すればかなうとは限らない」。世界的に見ても治安や衛生状態の素晴らしい日本という国で、しかも戦国時代でも大飢饉でもない平和な現代に生まれただけでもうラッキー、あとの細かいことは「気にするな」、さすれば人生もっと楽しくなる!


7. 刺さる言葉 〜 目からウロコの人生論 . . . 2006 / 日垣 隆

刺さる言葉

東北大学の法学部を卒業後、書店員やトラック配送員など数々の職歴を経て作家になり、現在はジャーナリスト・ギャンブラーそして英語学校の主宰まで務めながらも世間の「ウソ」と闘い続ける「ガッキィファイター」こと日垣氏による人生論。「お金」「仕事」「愛」「哲学」などのジャンルごとに、本や新聞でよく目にする単語や熟語を著者独特の目線からナナメに解説する。【勝ち組と負け組】⇒セコムしている家としてない家との違い。【謙虚】⇒悪質なうぬぼれ。【七転び八起き】⇒七回転んだら起き上がるのも七回のはず...などなど、世の中を軽妙に皮肉った日垣流・「悪魔の辞典」。


8. 大往生 . . . 1994 / 永 六輔

大往生

東京浅草にある浄土真宗・最尊寺の次男として生まれた永六輔。早稲田大の在学中に放送作家としてデビューし、「上を向いて歩こう 」や「遠くへ行きたい」などヒット曲の作詞でも有名なのだが、何と言っても半世紀にも及んだラジオパーソナリティーとしての功績が光る。視聴者からラジオに寄せられた数多くのハガキ、自ら全国を旅する中で市井の人々から聞いた、「老い」「病い」そして「死」に関する短くて深〜い寸言(すんげん)を30万点もの中から厳選して編纂したという超大作。「生まれてきたように死んでいきたい」・「人生は 紙おむつから紙おむつ」・「死に方っていうのは、生き方です」などなど、ユーモアの中にもあっと驚く真実が記されている。巻末では「あとがき」に代えて自分自身に宛てた「弔辞」を捧げているのが何とも斬新でカッコいい。


9. 自分の中に毒を持て . . . 1988 / 岡本 太郎

自分の中に毒を持て

「芸術は爆発だ!」で一世を風靡した芸術家・岡本太郎(1996年没)による人間論。20代を過ごした留学先のパリで、ある美術館でふと目にしたピカソの作品に衝撃を受けて画家を目指したという彼だが、元々はバリバリの哲学者で思想家であり、生涯を通して貫いたのは「人間は自由である」という信念。人生の岐路において安全な道だけを選ぶ「無難な生き方」を良しとせず、あえて困難に立ち向かい、そこで得た「想定外」の体験こそが人生の喜びだと主張する。冒頭の名セリフは、「芸術とは生きる事そのものであり、人間として自由に生命を爆発させる生き方こそが芸術だ」という意味。30年も前に書かれた本だが今の日本社会における矛盾を見事に突いており、この本を読みながら「そんなこと、岡本太郎だから言えるんだ」などとシラケている読者に対しては「自分で自分をごまかすな!」とばかり容赦ない鉄拳をぶちかます。人生の主役は自分であり、自分らしく生きるためには何でもアリという生き方には我々も見習うべき。そう、「グラスの底に顔があっても良いじゃないか」なのだ。


10. 人間の煩悩 . . . 2016 / 佐藤 愛子

人間の煩悩

「人間とは ?」・「人生とは ?」そして「あの世とは ?」など6つのテーマを論じながら、結局は「悩みの量こそが人間の深さ」と説くのは、大正時代に大阪で生まれた小説家で、日本の戦後ヒット曲第1号『リンゴの唄』の作詞でも知られる詩人のサトウハチローを異母兄に持つ佐藤愛子さん(95歳)。最初の夫はモルヒネ依存症となり死別、次の夫は事業が倒産して借金を肩代わりの末に離婚と、「目の前を生きるだけで精一杯」だった 波瀾万丈の日々を振り返る。 本書は過去に出版された小説・エッセーなど50冊にも上る作品の中から、ご本人お気に入りの珠玉の言葉・文章を抜粋して一冊にまとめたもので、煩悩から抜け出して元気よく生きるためのエッセンスが詰まっている。