新書のすゝめ 〜 若者の大問題

1. 若者はなぜ3年で辞めるのか? . . . 2006 / 城 繁幸

若者はなぜ3年で辞めるのか

バブル崩壊直後の1993年に日本で初めてアメリカ式の「成果主義」を導入したIT大手の富士通。東大法学部から同社の人事部に入社し、この不完全なシステムを取り入れた後に起こった社内の惨状を描いた『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』が大ベストセラーとなって、現在は人事コンサルタントとして活躍する城繁幸による問題提起。バブル後の1990年代以降、日本企業の良き伝統であった終身雇用と年功序列は崩壊し、今や40代以上の中高年者の雇用と給料を確保するために20〜30代の若者が犠牲となっている現実を問題視する。規制緩和という美辞麗句の名のもとに自由化された「派遣労働」によって若き正社員の立場はますます危うくなり、苦労して勝ち取った内定によって何とか入った就職先で見えたのは、年金問題と同様に「火の点いた爆弾が爆発する前に上の世代から下の世代にリレーする」様子。本書は新卒社員の3割が3年で辞めるという若者の問題のみならず、日本社会が抱える大問題にスポットを当てた一冊。


2. 3年で辞めた若者はどこへ行ったのか? . . . 2008 / 城 繁幸

3年で辞めた若者はどこへ行ったのか?

戦後の半世紀に渡って日本の企業で培われたのは、年功序列と終身雇用という2本のレールという「昭和的価値観」であったが、21世紀に入ってその両方ともが加速度的に崩壊を続けて行く。しかし、多くの会社はそんな価値観に縛られた働き方や規則・習慣を変えようとはしない。前項の『若者はなぜ3年で辞めるのか?』で若者の置かれた状況に警鐘を鳴らした著者が、既に3年で辞めてしまった若者たちの「その後」を追跡する。「若者はひたすら上司に従うべし」「女性は家庭に入ってさっさと辞めるべし」「正社員が勝ち組で、フリーターは負け組」というような昭和的価値観を捨てて、「自分のために」転職や独立・企業する若者たちを例に挙げ、時代が確実に変わりつつある事を実感させられる。確かにレールから外れたアウトサイダー的な生き方という選択肢もあるのだが、大多数の若者たちを救済するような根本的な打開策は未だ見えて来ない。


3. 最貧困女子 . . . 2014 / 鈴木 大介

最貧困女子

働く世代の単身女性の3人に1人、特に10〜20代に集中している「貧困女性」への密着取材を通して、彼女らとそれを取り巻く社会の問題をあぶり出す。親からの虐待によって10代にして家出や独立という道を選び、勢いで結婚するも夫の暴力に耐えかねてシングルマザーとなった女性たちに対して、なぜか同情よりも「わがまま」・「自己責任」と批判の声を浴びせる社会の風潮こそ危険と断じる。「マイルドヤンキー」「プア充」などと自称し、陽気にたくましく生きる女性も多い一方で、援助交際やデリヘルなどの性風俗で日銭を稼ぐしか方法のない「最貧困女子」の苦しみや、社会資本(家族や友人)に加えて金融資本(お金)が無いという理由により人的資本(仕事)まで失って、社会の底辺にまで堕ちてしまう女性たちの苦悩と驚くべき「生きざま」をレポートする。著者であるルポライターの鈴木氏は本書の出版直後に41歳で突然の脳梗塞に襲われるが、懸命なリハビリと家族の支えによって復帰し、その体験を元に「脳が壊れた」を出版している。


4. 私は若者が嫌いだ!. . . 2008 / 香山 リカ

私は若者がキライだ

精神学者であり、評論家でもある著者がこの本で指摘する「若者」というのは、主に「ゆとり教育」にどっぷりハマった1987〜1996年生まれを中心とする人たち。社会において「お客様意識」の抜けない若者たちは自分の事しか考えられなくなっており、簡単に傷ついたりすぐにキレたりして周囲と隔絶してしまう。経済や教育の格差が今の若者を生んだという社会学的な見地と、新型うつ病や通り魔犯罪のような心理学的な見地から、彼ら・彼女らの不可解な行動を分析する。タイトルに「嫌いだ!」とあるように、けっこう厳しい言葉を浴びせているが、本書を通して感じられるのはむしろ今の若者たちを良い方向に導きたいという応援の気持ち。本人が「バッシング覚悟で書いた」と言うように、嫌われても言わずにはおれない人生の先輩からの叱咤激励と受け止めよう。


5. 友だち地獄 〜 「空気を読む」世代のサバイバル . . . 2008 / 土井 隆義

友だち地獄

社会問題論や犯罪社会学を専門とし、筑波大学で社会学・教育学を研究する著者が、現代の子ども・若者が抱える歪んだ「優しい関係」に迫る。誰からも傷付けられたくなく、誰も傷付けたくないという鋭敏な嗅覚が「空気を読めない」人を阻害し、その一方で自分が阻害されないようにメールやスマホでお互いの「つながり」を確かめ合う。そんな息苦しい環境と、いじめ・ひきこもり・果てにはリストカットやネット自殺という若者の行動を照らし合わせ、その背後に横たわる人間の本質に迫る。読後感は重いが、読んでおくべき一冊。


6. 結婚難民 . . . 2008 / 佐藤 留美

結婚難民

青山学院大を卒業後、出版社などの勤務を経て自ら設立した編集企画会社・「ブックシェルフ」において働き方・キャリア・労働問題・働く人の生活実感などをテーマに活躍するライター・佐藤氏が追跡調査した「結婚しない若者たち」の実情。適齢期を過ぎても独身を通している若い男たちは「無責任」とか「甲斐性なし」とか散々な言われようだが、実は「結婚したい」と思える女性が少なくなったのが原因ではと考える。メールの回答が無いと怒る「即レス要求女」・デート中にキレて暴力をふるう「DV女」・セレブ狙いの「薄っぺら女」・さらには男を癒しの道具としてその生気を吸い取る「クーガー女」などなど...世論の多くが男性側に問題があるとする中で「結婚してはいけない女」のパターンを列挙して男性を擁護し、さらには幸せな結婚が出来るように「自信を持て!」と激励するスタンスは新しく、多くの未婚男性に勇気を与えてくれる。


7. ワーキングプア . . . 2006 / 門倉 貴史

ワーキングプア

「働いても豊かになれない・どんなに頑張っても報われない」という状態や人々のことで、日本語では「働く貧困層」と訳されているワーキングプア。バブル崩壊後の長期不況において、多くの企業が「規制緩和」という名のもとに、賃金の高い正社員を派遣や非正規社員に置き換える手法のコスト削減によって生まれたワーキングプアは今やこの国を揺るがす社会問題となっている。BRICSや地下経済などが専門で、テレビでもお馴染みのエコノミスト・門倉氏が、豊富なデータとインタビューによってワーキングプアの状況を可視化し、構造改革による自由主義経済と民営化がもたらした日本型雇用システムの崩壊に警鐘を鳴らし、たとえ正社員として活躍している人でも、リストラや倒産などによっていつ陥るか分からない恐怖を煽るのだが、救いになるような処方が述べられていないのが少し残念。まぁ貧乏でも「プア充」とか言って明るく暮らしている人たちも多いのだし、プアにはプアなりの生き方もあっていいのかも?


8. 貧困世代 〜 社会の監獄に閉じ込められた若者たち . 2016 / 藤田 孝典

貧困世代

社会福祉士の資格を有し、社会的弱者への支援活動を各方面で繰り広げるソーシャルワーカーの藤田氏が、2015年にベストセラーとなった著書・『下流老人』に続いて世に出した第二弾。複雑な家庭環境や不運により就職すら出来ない若者たち・ブラック企業で精神を病んでしまう若者たちには住居さえ与えられず、路頭に迷って行き着くのはネットカフェ・脱法ハウス・そして生活保護...。ひとつ上のシニア世代から見れば「努力不足」や「自己責任」と映るかも知れないが、今や若者の貧困は21世紀に入って激変した社会環境によって構造的に生まれた「災厄」であると分析する。現代の日本社会から「強いられた貧困」に直面する世代(プア・ジェネレーション)の実態を明らかにして、彼ら・彼女らに一体何が起こっているのかをレポートする。


9. 僕たちは就職しなくてもいいのかも知れない . . . 2014 / 岡田 斗司夫

僕たちは就職しなくても

大阪電気通信大学の在学中に「SF & アニメーション研究会」での活動にすっかりハマってしまい、その後SFグッズ専門店やアニメ制作会社を立ち上げ、おたく界のオピニオンリーダーとして君臨、オタキング(おたく王)と呼ばれるまでになった実業家の岡田斗司夫が推奨する「新しい働き方」。戦後の高度成長期が終わりを告げ、今や大企業でさえも安泰と言えない状況にも関わらず、就活に大変なエネルギーを費やし、運よく入社出来ても早々に辞めてしまう今の若者たちを、250年前の幕末で維新の大波に逆らって崩壊寸前の江戸幕府にしがみつき、最後は全滅への道を歩んだ「新撰組」に例え、組織を頼りとするあまり自滅してしまう働き方に見切りを付ける。会社に縛られた「就社」ではない、真の意味での「就職」への道を提言する。


10. 本能の力 . . . 2007 / 戸塚 宏

本能の力

1983年の「戸塚ヨットスクール事件」で社会問題となったスクールの初代校長・戸塚宏による教育論。不登校や引きこもり・家庭内暴力の子供がなぜ増えたのか? 無気味な少年犯罪が連続するのはなぜなのか? 現代日本の歪みは、すべて「本能の力」を軽視したことのツケである。「不快感が子供を育てる」・「体罰は進歩のためにある」・「脳幹を鍛えよ」等々、ありふれた建前論を覆し、徹底的に経験に基づいて作り上げた戸塚理論の精髄がここにある。