新書のすゝめ 〜 日本の今を考える

1. 日本を創った12人〈前編〉. . . 1996 / 堺屋 太一

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通産省の官僚から作家へと転身し、戦後の1947〜1949年生まれの国民を「団塊の世代」と命名した堺屋太一が、1998年の小渕内閣で経企庁長官に就任する際に世に贈った一冊で、先人たちの「国創り」に対する想いが描かれている。タイトルは「12人」なのだが、前編・後編の合計が12人という事で、本書には聖徳太子・光源氏・源頼朝・織田信長・石田光成・徳川家康の6人が登場する(光源氏は『源氏物語』の主人公で架空の人物)。いずれも日本の歴史に名を馳せた大人物だが、そんな彼らを現代のサラリーマンになぞらえた発想が面白い。「勤勉」「実直」「誠実」など、現代の日本人が世界に誇る国民性を確立した先人たちの活躍は、まさに日本を「創った」と言える。


2. 日本を創った12人〈後編〉. . . 1997 / 堺屋 太一

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前編に続き、日本を創った「6人」の功績を讃える書。前編よりも時代が新しい偉人達が選ばれており、今の日本に与えている影響をより身近に実感できる。江戸時代の思想家である石田梅岩、「維新の三傑」のひとり大久保利通、渋沢栄一・マッカーサー元帥・池田勇人そして松下幸之助と、一気に昭和の成長期へと盛り上げる展開はまるで映画のよう。時を経ても陳腐化しない内容ということで、前編と併せて2006年に「文庫落ち」バージョンを出してもう一稼ぎと、さすがに経済官僚らしく「ちゃっかり」していた堺屋サンだが、惜しくも2019年に83歳で亡くなった。官僚出身でありながら、官僚手動の政治を厳しく批判し続けて「楽しい日本を創ろう」というメッセージを遺した。


3. 国家の品格 . . . 2005 / 藤原 正彦

国家の品格

気象台に勤めながら観測所での経験を生かした山岳小説で人気を集め、昭和を代表する作家として活躍した新田次郎。本書はその次男であり、東大卒の数学者でありながらエッセイストとしても人気の藤原センセイが世に出したベストセラー。経済優先という欧米型の論理と「合理性」が幅を利かす21世紀においては、情緒と伝統を重んずる日本の「品格」こそが世界を救うという画期的な提言が話題を呼んだ。著者自らが「品格なき筆者による品格ある国家論」と称する通り、舌鋒鋭い批判の中にも独特のユーモアが溢れており、思わず声を上げて笑ってしまう。今の日本に必要なのは論理よりも情緒、英語よりも国語、民主主義よりも武士道精神と説き、特に昭和から平成にかけて失われた「国家の品格」を一刻も早く取り戻そうと説いた書で、このあと二匹目のどじょうを狙った「品格ブーム」の火付け役にもなった。ベストセラーという言葉にアレルギーを持つ読者にもすっと腑に落ちる、おススメの一冊。


4. 日本人の誇り . . . 2011 / 藤原 正彦

日本人の誇り

ベストセラーとなった『国家の品格』で大ブレイクした藤原センセイによる「日本再生論」の第ニ弾。戦後の高度成長期に世界第二位の経済大国となった日本だが、その後の政治・経済のつまづきから教育・モラル・社会に渡って危機に瀕している今こそ根本的な解決が必要だと訴える。それには何よりも、幕末の開国からこの国に根ざした素晴らしい日本文明を誇りとし、アメリカを筆頭とする戦勝国の都合によって作られた日本の自虐史観を捨て去り、大戦時における日本の真実を学ぶ事こそが最善の方策と説く。武力によって植民地支配を拡大する欧米の帝国主義からアジアを救って賛美を浴びた日本人よ、今こそ真の祖国愛を取り戻せという元気の出る提言。前作と同様のタッチで、厳しい論調の中にも随所にユーモアが飛び交っており、何度読んでも楽しめる。


5. 日本の決断 〜 あなたは何を選びますか? . . . 2013 / 池上 彰

日本の決断

最近は反日的かつ中国寄りの発言で叩かれている彼が、まだ「まとも」だった頃の古き良き本。NHKテレビ「週刊こどもニュース」のお父さん役として11年に渡り奮闘、解りやすいニュース解説で人気だったジャーナリスト・池上彰が解説する「日本の大問題」。2011年に大災害に見舞われた福島の事故から数年が経っても方針が決まらない原発問題や、綱渡り状態が続くアベノミクスの元で広がる賃金の格差、少子高齢化によって危機を迎える年金問題、さらには憲法改正や米中露という大国と向き合う日本の外交など、過去から先送りされ続けている多くの問題を浮き彫りにして、国家の主役でありながら「のほほん」と暮らしている国民に決断を促した提言書。


6. 本質を見抜く力 . . . 2008 / 養老孟司・竹村公太郎

本質を見抜く力

地球温暖化やエネルギー問題、国家間における水資源の争いや食料問題など、日本を取り巻く様々な環境に対し、客観的データに基づいた分析によってその本質を明らかにする。社会的事象を解剖学的な見地から解説して、その著書『バカの壁』で大ブレイクした養老孟司と、国土交通省(旧・建設省)で河川局長を務めた一方で作家としても多くのエッセイを出している竹村公太郎という理系のお二人が、人類が農業を始めたとされる縄文時代まで遡り、今の地球上で起こっている諸問題について、正しい「モノの見方」・「日本の見方」を語り合う。


7. だから日本はズレている . . . 2014 / 古市 憲寿 (ふるいち・のりとし)

だから日本はズレている

登場するメディアのあちこちで問題発言を連発し、「炎上系コメンテーター」という新たなるステイタスを確立しつつある若き社会学者・古市クンによるエッセイ。東京でオリンピックが開催されれば日本経済は安定すると思っている人々、憲法さえ守れば日本は永遠に平和だと思っている人々、東日本大震災を機に「脱原発というお祭り」に乗っかる人々の「カン違い」などをクールに論じる。名前だけが先走りして誰もその意味を知らない「クール・ジャパン」や学歴による「就活カースト」、そして「日本には強いリーダーが必要だ」などという錯覚など、誰が発信したのか分からない情報によって迷走を続ける日本の「弱点」を冷静に、かつナナメに分析する。


8. ついに日本繁栄の時代がやって来た. 2017/日下公人 (くさか・きみんど)

ついに日本繁栄の時代がやってきた

保守言論界の大御所として一目置かれる存在で、日本礼賛の著書も多い評論家の日下公人氏による日本繁栄論。アメリカと中国の動きを牽制する一方で、世界から愛される日本の良さを強力にアピール、日本の繁栄が世界を牽引するという「日下節」が心地良い。マスコミや学者・専門家という人々が頼りにならなくなった今の時代においては、我々一人ひとりが自ら知的武装するべきと論じ、国威発揚【こくいはつよう】を促す。アメリカによるグローバリズムに対峙し、中国の歪んだ歴史外交を喝破して日本の世界における優位性を説いた、何とも元気の出る一冊。


9. 世界が認めた「普通でない国」日本 . . . 2016 / マーティン・ファクラー

世界が認めた普通でない国日本

アメリカの大手新聞社「ニューヨーク・タイムズ」の東京支局長を2005年から6年間に渡って務めたマーティン・ファクラー氏。2011年の東日本大震災と原発事故を経て「権力者の代弁」をたれ流す日本のマスコミを問題視し、『「本当のこと」を伝えない日本の新聞』という著書を発表したが、それでも日本人の素晴らしさに魅かれ、これからの日本の繁栄を強く望んでいる。終戦から70年以上経ったにも関わらず、「普通でない国」として発展を続けた日本がこれまで世界で行ってきた数々の善行を振り返り、素晴らしい文化を持ち世界から評価される日本の強さに期待する。これからの世界における日本の役割を説いた、日本人への啓蒙書。


10. 日本はどう報じられているか . . . 2004 / 石澤 靖治・編

日本はどう報じられているか

高度成長期からバブル期へと、その経済力によって世界の脅威となった日本は猛烈な「ジャパン・バッシング」を受けたが、バブルの崩壊によってジャパン・パッシング(日本飛ばし:恐れるに足らず)、さらにはその後の「失われた10年」を経てもはやジャパン・ナッシング(無視:取るに足らず)と言われるほどまでに停滞している。本書はそんな日本が他の国々からどんな目で見られているかを、世界7つの国と地域に詳しい研究者やジャーナリストが現地人の視点で解説する。イギリス・フランス・ドイツ・アメリカ・アラブ世界・中国・韓国の人々が日本をどう理解して、どのように報じているのかが分かる一冊。