新書のすゝめ 〜 知的生活

1. 知的生活の方法 . . . 1976 / 渡部 昇一

知的生活の方法

英語学者としてその半生を母校・上智大学での研究に捧げる一方で論壇の重鎮としても活躍し、戦後日本の言論空間に風穴を開け「知の巨人」と称された渡部昇一(2017年没)のベストセラー。日本が世界に類のない高度成長を遂げる中で、物質的に豊かになった日本人に最も必要なのは「知的豊かさ」であるとして、それを獲得する唯一の方法は「本を読むこと」に他ならないと論じる。自分にとっての古典、つまり何度も繰り返し読む本や作者に出会うことが最大の幸福とし、仕事に忙殺されて読書をしない生活は「日常生活であって知的生活では無い」と喝破する。読書環境の向上に多くのアドバイスを与える中で、日本の夏を克服して知的生活を守るにはエアコンが一番というようなユニークな視点も本書のスパイスとなっている。


2. バカの壁 . . . 2003 / 養老 孟司 (ようろう・たけし)

バカの壁

東大名誉教授の解剖学者・養老孟司による大ヒット本。 日本の書籍では『窓際のトットちゃん』(1984/黒柳徹子)・『道をひらく』(1968/松下幸之助)・『五体不満足』(2001/乙武洋匡)に続く第4位のベストセラーとなり、タイトルは2003年の流行語にもなった。自分が知りたい事や耳触りの良い話だけを聞き入れて、都合の悪い事・イヤな話は遮断してしまうという、人間の心理的な境界線を「バカの壁」と名付けて解説する。若者と老人・アメリカ人とイスラム原理主義者・いたずら小僧と父親など、主張の反対な者同士が「話せば分かり合える」というのは幻想に過ぎず、人間は自分の考えに固執して相手の意見を耳に入れない「壁」をつくってしまう動物であると論ずる。16年前の出版だが内容は陳腐化しておらず、今でも充分に通用する知恵やノウハウが詰まった一冊。


3. 超バカの壁 . . . 2006 / 養老 孟司

超バカの壁

前項の『バカの壁』、そして続編の『死の壁』(2004)に続く養老孟司の第三弾。前2作の反響で多くの読者から寄せられた「身の上相談」に対する回答をまとめたもの。「自分に合った仕事とは?」「なぜ女の方が強いのか?」「お金で買えないものはあるか?」などの素朴かつ稚拙な質問に対して、ストレートに回答するのではなく変化球を投げつけ、質問者が自ら考えるように仕向ける手法にはついハマってしまう。今の日本社会は「ものの見方・考え方がどこか変」という思いを念頭に、フリーターやニート・自分探し・男と女・さらには少子化・靖国参拝などなど、日本人が抱える様々な問題の根源を明らかにしていく。


4. アホの壁 . . . 2010 / 筒井 康隆

アホの壁

ブラックユーモアで現代を風刺するSF作家の筒井康隆が、養老孟子の「バカの壁」のパロディ版として書いたもの。「人間は、考えるアホである」という悟りをベースに、「アホな言動」「アホな喧嘩」「アホな計画」などを延々と繰り返す人間の心理を分析し、「なぜあの立派な人があんなアホな事をするのか?」という疑問に答える。あちこちに「フロイト」という名前が出ていて、心理学や哲学に言及したお堅い本と勘違いされるかも知れないが、フロイト博士が人間の全ての行動は「無意識」によって起こされると唱えたオーストリアの精神学者であるという事を予備知識にしておくと非常に読みやすい。本書の結びでは「社会の潤滑油」としてそれなりに役に立っている「アホな人たち」に心の底からのエールを送っている。


5. 選ぶ力 . . . 2012 / 五木 寛之

選ぶ力

昭和ヒトケタ生まれの作家であり随筆家でもある五木寛之が、人間の「生き方」や「健康」・さらには「運命」や「終わり方」までを読者自身が選ぶことを手助けする実践的ヒント集。朝何時に起きるか・何を着て出掛けるか・電車では立つか座るか・そして会社に行けば分刻みであらゆる選択に迫られる...というように毎日の暮らしは何十何百の「選択」の積み重ねなのだが、人間はそれらをほぼ無意識に決断しており、それは言い換えれば「選択なしに人生は渡れない」ということ。
2011年の東日本大震災と原発事故によって「明日が見えない」不安の時代となってしまった今、「何が真実なのか」・「何を信じればいいのか」を決断するためのノウハウ本と言える。


6. 世界の日本人ジョーク集 . . . 2006 / 早坂 隆

世界の日本人ジョーク集

ルポライターとして世界各地を回りながら集めたジョークから選抜した『世界の紛争地ジョーク集』や『世界反米ジョーク集』で好評を博した著者が、日本の読者からのリクエストによって出版した本で、いわゆる「エスニック・ジョーク」の日本人版である。「もしも青いキリンを連れてきたなら賞金を出そう」という大富豪の発言に対して、イギリス人は「そんなキリンが存在するのか議論を重ね」、ドイツ人は「図書館に行って文献を調べ」、アメリカ人は「軍を出動して世界中を探し回り」、日本人は「品種改良を重ねて青いキリンを発明」した。この話のオチが「中国人は青いペンキでキリンを塗った」とあるように、日本人のみならず世界の民族を差別や格差を超えて軽快に笑い飛ばした一冊で素直に笑える。続編も併せて読んでおきたい。


7. 新書がベスト . . . 2010 / 小飼 弾 (こがい・だん)

新書がベスト

IT業界では名の知れたプログラマーであり、1996年にホリエモンが立ち上げたオン・ザ・エッヂ社(後のライブドア)の取締役でもあった実業家の小飼弾が新書の「つまみ読み」を推奨するもので、巻頭の言葉は「生き残りたければ新書を読め」。グローバル経済という時代の変革期において、経費削減を追い求める製造業だけでなく販売や流通・金融などのあらゆる業種が人から機械やAI(人工知能)に切替えられる中で、「情報弱者」に転落して負け組にならない為にはどんどん新書を読み、知の体系を構築していく他に道は無いと啓蒙する。蔵書数が3万冊を超える読書家でもある著書だが、こんなタイトルの本を「ベスト新書」から出すという茶目っ気がまた笑える。


8. おとなの教養 . . . 2014 / 池上 彰

大人の教養

本書では「教養」という言葉を、和英辞書によくある“Culture”ではなく“Liberal Arts”と訳している。これは中世ヨーロッパにおける大学の自由科目のことで、現代では「言語・歴史・文学・哲学」などを指す。日本の理系エリート最高峰である東京工業大学でリベラルアーツを講義した池上サンが理系と文系の間にある「溝」に愕然とし、幅広い一般教養の必要性を痛感したというのが本書を執筆した理由。宇宙や人類の起源・日本と日本人のルーツ・宗教や歴史など、今すぐには役に立たなくても、社会に出て「生きる力」となる知識を広め、それを暮らしに生かしてより良い人生を歩んで欲しい、という思いが込められている。受験勉強中の高校生にも、授業中ボ〜っとして聞いていなかった大学生や社会人にもおススメの一冊であり、教養とはまさに「自分を知ること」かも。


9. 叱られる力 〜 聞く力2 . . . 2014 / 阿川 佐和子

叱られる力

人気のバラエティ番組・「TVタックル」では大御所のビートたけしや大竹まことに容赦ないツッコミを入れる進行役をこなす一方、土曜の朝のトーク番組・「サワコの朝」では準主役である阿川さん。彼女によれば、作家だった父・阿川弘之(2015年没)は大変怒りっぽくて「コワいお父さん」だった。そんなお父さんに怒鳴られ続け、職場の上司には叱られ続けた結果、ひたすら「怒られないこと」と「人を不機嫌にさせないこと」だけを考えて「ひっそりと」生きてきた彼女が還暦を迎えて悟った「叱られても凹まない心得」。2012年に出版してベストセラーとなった前作・『聞く力』に次いで2匹目のどじょうを狙った(←本人談)第ニ弾。


10. 雑談力 . . . 2016 / 百田 尚樹 (ひゃくた・なおき)

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30年以上も続いている関西の人気番組・『探偵! ナイトスクープ』のチーフライターなどを手掛ける一方で、『永遠の0』・『海賊と呼ばれた男』などの小説で知られるベストセラー作家の百田尚樹。実は書くことよりも喋る方が100倍も好きであり(本人談)、面白い話や感動したことを人に伝えたいと急ぐ余りつい早口になってしまい、時にはあちこちで炎上したりもする。そんな百田氏が何よりも大切にするのは「人を楽しませたい気持ち」。サービス精神旺盛なキャラが原因でつい「暴言」を連発してしまう理由がこの一冊でよく分かる。