新書のすゝめ 〜 政治家もつらいよ

1. 美しい国へ . . . 2006 / 安倍 晋三

美しい国へ

2006年の首相就任前、小泉内閣で官房長官をしていた頃の安倍サンによる手記。「政界の黒幕」とも呼ばれた岸信介の孫として生まれ、若くして国づくりを志した「戦う政治家」の政治信条が記されている。天皇や憲法に対する敬愛、拉致被害者や自衛隊への積極支援、日米同盟の支持・対中関係の懸念など、安倍サンの熱い思いが伝わってくる。自民党が政権を奪回して再び首相に返り咲いた直後の2013年には続編となる『新しい国へ』を出版して、その思いを一層強く訴えた。ただ少子化や教育・拉致問題など、一刻も早く解決すべきとしていた課題が今でも進んでいない部分は、野党やマスコミに突っ込まれても仕方が無いかも。7年8ヶ月という歴代最長の首相在任期間を全うした安倍サン、「そんな人たち」に負けずによく頑張りました!


2. とてつもない日本 . . . 2007 / 麻生 太郎

とてつもない日本

明治維新の英雄で、西郷隆盛・木戸孝允と並んで「維新の三傑」と呼ばれた大久保利通の玄孫(やしゃご:孫の孫)であり、戦後の名宰相ランキングでは第1位に輝く吉田茂の孫であるという超サラブレッドの麻生氏が称賛する「日本の底力」。古来から培われた日本人の道徳性と勤勉さは世界の国々から尊敬の念を持たれており、アジア諸国のリーダーとしての期待に応えようという、今の日本人に元気を与えてくれる応援本。やれ右だ左だと言うレベルの話ではなく、首相経験者という立場からの俯瞰的な目線で日本にエールを送る。会見などでは失言が多く、自らを「生まれは良いが、育ちが悪い」と自虐ネタで評する麻生氏だが、本書は上品な日本語で綴られており、最後まで気持ちよく読めるのでご安心を。


3. 日本を貶めた10人の売国政治家 . . . 2009 / 小林 よしのり

10人の売国奴

マンガ『東大一直線』でデビューして、最近では『ゴーマニズム宣言』などで社会に鋭く斬り込む「よしりん」こと小林よしのり氏の呼びかけで、保守派の哲学者・長谷川三千子や辛口コラムニストの勝谷誠彦などが集まり、売国政治家を名指しで糾弾する座談会。さらには各界の論客たちによるアンケートで「売国政治家ワースト10」を発表・解説するという痛快なもの。右寄りの感は否めないが、「売国」という観点からは正しく捉えている。ちなみに民主党が政権を取っていた2009-2012年に日本を貶めた3人の首相が登場しないのは、この本がその直前に出版されたため (笑)。


4. 政治の修羅場 . . . 2012 / 鈴木 宗男

政治の修羅場

2002年の小泉政権時代、官僚や議員が寄ってたかってクビにした外務大臣の田中さんの騒動に「マキコ」まれた形で、自らも衆議院の運営委員長を辞任した鈴木宗男氏。その後マスコミと検察のリークによって本人もまさかの「有罪」となってしまったのだが、本書はそこから1年半の収監を終えた直後に発表した手記。北海道の高校を出て拓殖大を卒業後、「北海のヒグマ」と呼ばれた同郷の議員・中川一郎の秘書からスタートした鈴木氏が、田中角栄の豪快な政治手腕や、師である中川氏の自殺を契機に出馬した事に対するバッシング、さらにはロシア通としてプーチン大統領と1対1の交渉に臨んだ際の鬼気迫るやりとりなど、修羅場をくぐり抜けてきた男の闘いを赤裸々に描く。本書のストーリーは2009年に民主党が政権を取った時点で完結しており、それまでに取り沙汰された自らの嫌疑には触れていない。海外利権疑惑などで「疑惑の総合商社」とまで野党の議員から罵倒されはしたが、その議員も後に詐欺で逮捕されて疑惑まみれという魑魅魍魎な政治の世界においては、鈴木氏が白か黒かの結論が出るにはまだまだ時間がかかりそう。


5. 政治の急所 . . . 2014 / 飯島 勲

政治の急所

政治評論家やマスコミが決して明らかにしない政治の要(かなめ)、言い換えれば政治の「急所」を激白するのは、2001年に発足した小泉内閣で主席首相秘書官を務め、2012年からの安倍内閣で「内閣官房参与」という要職を担う飯島氏。叩き上げの議員秘書という事で前項の鈴木氏とは馬が合うようだが、その強面(コワモテ)な見た目とは真逆で「ももクロ」の大ファンというのが笑える。内閣の造り方から官庁のエリートが打ち出す経済政策、拉致問題から北方領土、さらには永田町のウラ話など、政治の舞台裏をギリギリセーフの範囲で一般市民に教えてくれる一冊。


6. 内閣総理大臣 〜 その力量と資質の見極め方 . . . 2010 / 枡添 要一

内閣総理大臣

福田・麻生内閣で厚労大臣を2年務めた後、2014年にトップ当選で就任した東京都知事を「いろいろあって」辞職した舛添サン。かつてはバラェティ番組にも出演する人気者だったが、その本業は「国際政治学者」。何てったってパリ大学の学生相手にラテン語混じりのフランス語で講義をしたほどで、日本の知的スーパーエリートである事は間違いない。本書は2002年の小泉政権時に書いた前作を元に改めて首相の素養を問うた「増補版」なのだが、時の民主党政権をばんばん批判するさまは痛快極まる。さすがに学者らしく、国際政治史に照らした戦後日本の発展とバブル後の後退を歴史や社会学を織り交ぜて分析する手腕はお見事で、「政治が汚らしくカネに傾斜する事に怒りを感じる」という一方で、「政治にカネを使うこと自体は悪でないが、それを私利私欲に使うから悪なのだ」という主張も理に適っている。しかもこれを書いた6年後に自らの金銭スキャンダルで都知事をクビになるという「オチ」まで付いており、本書は正に体を張った政治論と言える(?)


7. 田中角栄と安倍晋三 . . . 2016 / 保阪 正康

田中角栄と安倍晋三

昭和史研究の第一人者と呼ばれ、『あの戦争は何だったのか 〜 大人のための歴史教科書』などの著書でも知られるノンフィクション作家の保阪氏が、昭和の日本成長期を代表する田中角栄と、「失われた20年」に向き合って平成の世で闘う安倍晋三という2人の首相にスポットを当てる。
高等小学校を卒業した「土建屋上がり」ながら稀代の才能と行動力で首相にまで登り詰めた田中を称賛する一方で、「昭和の妖怪」と呼ばれた岸信介(母方)、東条内閣と激しく対立して戦争反対を訴えた政治家・安倍寛(父方)の孫というサラブレッドでありながら、曖昧な歴史観によって改憲に向かっているとして安倍を批判する。大戦中に出兵の経験もある田中が戦争を美化せず否定する人物として評しているのに対して、戦後生まれで戦争の怖さを知らない安倍が国家を戦前の危険な状態に導いていると危惧しており、この本の出版元の意図が透けて見えたりもする。


8. 総理の辞め方 . . . 2008 / 本田 雅俊

総理の辞め方

1945年8月15日、敗戦によって総辞職した鈴木貫太郎内閣の後を受け、終戦処理という非常事態に対応するべく誕生した日本初の皇族出身内閣の東久邇宮(ひがしくにのみや)首相に始まって、辞任会見における「あなたとは違うんです」の名言で2008年の新語・流行語大賞に選ばれかけた(本人が辞退) 福田首相まで、29名の歴代総理の経歴と辞任の理由・そしてその後の人生を追跡するのは、現代日本政治を専門とする政治行政アナリストの本田氏。 戦後日本の首相たちが、どのように最高権力の座から降りて行ったのかを「最後の場面」に注目して浮き彫りにするというユニークな企画で、日本政治の足跡をたどる。


9. 官房長官を見れば 政権の実力がわかる . . . 2013 / 菊池 正史

官房長官を見れば政権の実力がわかる

日本テレビの政治部記者として永田町を奔走し、テレビ報道と政治の関係を肌身で体験してきた著者がレポートする「官房長官のお仕事」。2013年に起こったアルジェリア人質事件で安倍首相と連携してリーダーシップを発揮した菅義偉(よしひで)と、2011年の東日本大震災に際して「バ菅」の暴走を止める事が出来なかった枝野幸男との対比を描き、官房長官という役職が政権に与える多大なる影響力を論評する。過去には「田中角栄の懐刀」と呼ばれ、中曽根内閣の官房長官として「カミソリ」の異名を取った後藤田正晴(2005年没)や、小渕・森の両政権を支え「影の総理」とまで呼ばれた野中広務(2018年没)、小泉内閣では文字通りの「影」として秘密主義を徹底した福田康夫など、リーダーシップ【統率】とマネジメント【管理】という両輪をバランスさせて日本を動かした「名参謀」たちの力量を検証する。


10. 知の訓練 〜 日本にとって政治とは何か . . . 2017 / 原 武史

知の訓練

日本政治思想史を専門とし、政治の発生を「神社」「広場」「鉄道」などの具体的な場所に着目する「空間政治学」を提唱する学者が解き明かす「この国のかたち」。日本の政治を多角的な視点で捉えた内容で、明治学院大学の国際学部(横浜市)で著者が2011年9月から2013年1月にかけて行った講義「比較政治学」の講義を新書にまとめたもの。今の大学生に是非おススメしたい一冊。