新書のすゝめ 〜 ネット社会の裏側

1. 「いいね!」が社会を破壊する . . . 2013 / 楡 周平 (にれ・しゅうへい)

いいね!が日本を破壊する

フェイスブックによる個人情報の流出に危機を唱える、という趣旨の本ではない。いやそれどころではなく、アマゾンが仕掛ける物流改革やネット通販による流通破壊、そして大型量販店やLCC (格安航空会社)などによる価格破壊と、利用する大多数の人々が「いいね!」と思っている便利なネット環境が逆に人々の雇用を奪い、さらには社会を破滅させる危険性に警鐘を鳴らしたもの。 世界最大のフィルムメーカーである米イーストマン・コダック社に15年間勤めた著者自身が2012年にその倒産を目の当たりにした経験から、好調を続ける優良企業までもが陥る罠と、消費者の取るべき方策について提言する。昔からのことわざ・「タダほど怖いものは無い」の真意を罪のない一般市民が身を以て痛感するのは、そう遠くない未来なのかも知れない。


2. その「つぶやき」は犯罪です . . . 2014 / 鳥飼 重和・監修

その「つぶやき」は犯罪です

現役で活躍中の5人の弁護士による「ネットのルール」教則本。ツイッター・ブログ・フェイスブックなどで発信した書き込みやアップした画像が法律違反となってしまう危険性について注意を喚起する。本書では何気ない投稿やツイートによって名誉毀損や著作権侵害・さらには個人情報の漏洩(ろうえい)など、本人が気付かぬままに「加害者」となってしまうケースと、逆に本人が知らない間に「被害者」となってしまうケースに分けて解説する。ここに書かれてある全てを気にしていると、おちおち書評コメントすら書けない窮屈さを感じるものの、インターネットに参加する全ての人々がその怖さを理解しておくためには必読の書と言える。


3. なぜアマゾンは1円で本が売れるのか . . . 2017 / 武田 徹

なぜアマゾンは1円で?

1980年代後半に登場したワープロ、90年代のウインドウズ95、そしてインターネットの実用化によるメディア革命...と、なかなか興味深い内容なのだが、肝心のお題=『なぜアマゾンは1円で本が売れるのか?』に対する答えがほとんど書かれていない。アマゾンが世界で展開する物流戦略や、今後のビジネスモデルの分析・予測などを期待していた読者には肩透かしとも思える内容で、もしかするとタイトルの付け間違いなのか、または意図的にストレートな回答を避けて読者の想像力に委ねたのかも知れない。副題の『ネット時代のメディア戦争』がタイトルならば充分に説得力があったと思わせる一冊。


4. グーグルが日本を破壊する . . . 2008 / 竹内 一正

グーグルが日本を破壊する

徳島大の工学部で学び松下電器やアップルでエンジニアとして働いた経験を持つ経営コンサルタントの竹内氏が、21世紀に入って急成長を続ける検索アプリの世界最大手「グーグル」のビジネスモデルとその野望について考察する。冒頭にもあるように、「検索」ではなく「広告」で儲けながら世界の情報を支配するグーグルが、日本型社会システムの根幹を揺るがしつつある現在の状況を読み解く。日本の広告産業を長年に渡り牛耳ってきた新聞社やテレビ局などのメディア、さらにはバブル後の不況にも関わらず高収益を上げ続ける電通や博報堂などの広告会社において、従来からの旧態然としたビジネスが崩壊すると危険視。さらには20世紀のITモンスターであるマイクロソフト社と比較して、「自社のソフトを使いたいなら金よこせ」と言うマイクロソフトとは対照的に「当社の検索サービス、どうぞタダでお使い下さい」と囁くグーグルの圧倒的な優位に戦慄が走る。グーグルの創立10年目の2008年に書かれた本だが、全く古さを感じさせない内容。


5. アップル、グーグル、マイクロソフト . . . 2010 / 岡嶋 裕史 (ゆうし)

アップル・グーグル・マイクロソフト

最近のIT業界でやたらと登場する言葉なのだが、今ひとつよく分からない「クラウド」について情報ネットワークの専門家が分かりやすく説明する。オフィスや自宅のパソコンに有料のソフトをインストールする従来の方法に対して、パソコンやスマホからインターネット経由で「どこかにあるらしい」サーバーに接続し、そこのソフトウェアやデータをサービスの形で使うという概念は、話題になった当初は文字通り「雲をつかむ」ような話だった。簡単に言えば、自宅のパソコンに届いたメールが、外出先からスマホで読めるようになった、ような感じ。本書はこれからのクラウド時代の主役とされるアップル・グーグル・マイクロソフト、さらにはアマゾンのビジネス戦略を解説しながら、クラウドの未来を俯瞰した一冊。ちなみに著者はアップルを応援してっぽい。


6. フェイスブックが危ない . . . 2012 / 守屋 英一

フェイスブックが危ない

アメリカの名門・ハーバード大学の学生だったザッカーバード君が2004年に同級生らと面白半分に始めた「Facebook」は今では世界で23億人が利用するメガサイトに成長している(2019年現在)。実名登録という安心感が「友達」の輪を広げ、便利に感じるユーザーが多い一方で、ストーカーや機密漏洩などの思わぬ被害に遭うケースが多発している。何気なく投稿した記事が「誹謗中傷」とか「炎上」などのトラブルを招くことのないように、フェイスブックに参加する人々が守るべきルールと、何か起こった時への対応方法を、日本アイ・ビー・エム出身のセキュリティ専門家が解説する。


7. 本当は怖いソーシャルメディア . . . 2012 / 山田 順

本当は怖いソーシャルメディア

「カッパブックス」でお馴染みの光文社からフリーに転身した「憂国のジャーナリスト」・山田順によるSNS脅威論。2011年にチュニジアとエジプトで勃発した「アラブの春」や米ニューヨークで起きた「ウォール街を占拠せよ」は世界に影響を与えたが、これらはフェイスブックやツイッターなどの力によるものだった。本書はテレビや新聞など大手メディアの影響力が低下する中でパワーを増し続ける「ソーシャルメディア」の負の側面とその危険性について言及し、さらにはウェブ検索市場を独占しつつあるグーグルや「当日お届け」という圧倒的なサービスで他の追随を許さないアマゾンなどの巨大プラットフォームと合体した「メディア融合時代」における近未来を予測し、ネットによる「監視社会」の到来までも展望する。


8. ネットのバカ . . . 2013 / 中川 淳一郎

ネットのバカ

インターネット利用者の生態を観察した『ウェブはバカと暇人のもの』(2006)で話題を呼んだ著者が、これまたネットユーザーを解明した第二弾。一橋大学から博報堂に入社した中川氏だったが、「仕事とは好きでもないオッサンを偉くするために働くこと」と気付いて4年後に退職、自らニュースサイトを開設し、「ネットニュース編集者」としての地位を確立した。三度の飯よりビール好きで、酒で数々の失敗を繰り返しながらも権威に屈しない自由奔放な意見をばんばん放つその姿勢にはファンも多い。本書は過激な書き込みで炎上した人・見栄としがらみの課金ゲームに搾取され続ける人・陰謀論を掲げて戦うネトウヨとパヨクなど、「バカども」が繰り広げる現実と、それに巻き込まれない手法が楽しくて笑える。そうそう、第三弾に『バカざんまい』ってゆうのも。


9. ネットがあれば履歴書はいらない . . . 2010 / 佐々木 俊尚

ネットがあれば履歴書はいらない

毎日新聞の記者からパソコン雑誌「月刊アスキー」編集部を経てIT系ジャーナリストとして活躍し、2006年の著書『グーグルGoogle 〜 既存のビジネスを破壊する』で知られる佐々木氏によるネット活用論。サブタイトルにある「ウェブ時代のセルフブランディング術」とは、企業や組織に所属せずに肩書きで仕事をしていない「個人」が、自らをメディア化してプロモーションすることで、文字通りSelf (自己)をBranding (ブランド化)する手法について述べている。終身雇用の崩壊によって企業社会の終焉が進む中で、今後求められる人材は組織に従順な「ゼネラリスト」ではなく、専門知識に特化した「エキスパート」に変わっていくという展望のもと、ネットを利用して自力で稼いで生きて行くためのヒントを教えてくれる一冊。


10. 考えないヒト 〜 ケータイ依存で退化した日本人 . 2005 / 正高 信男

考えないヒト

ケータイを手放せなくなった現代の若者を「サルに退化している」と論じて2003年にベストセラーとなった 『ケータイを持ったサル〜人間らしさの崩壊』 の著者で、チンパンジーの研究でも知られる霊長類学者の正高氏による日本人文化論の第二弾。友人の電話番号やメールアドレス、仕事のスケジュールや約束の時間・場所そして行き方... 全ての煩雑な情報を小さなマシンに記録する事でわずらわしい作業から解放されたはずの人間が、それによって節約できた時間を果たして有効に使っているのか? 数多くの重要な情報を自分たちの脳ではなくケータイに保管することで実現したのは、思考力の衰退や家族の崩壊などの退化現象に他ならないと結論付ける。増え続ける日本人の「引きこもり」「キレる」「ネット依存」などはIT依存による人間の「サル化」に他ならないという主張にはやや飛躍があるが、本書は現在のスマホ社会を予測したものと言える。